武器(竹槍)を捨てて今すぐ投降しなさーい

突然でアレだが、会社が解散する事になった。
経営の問題とかじゃなくて、代表の心が折れちまったせいだ。
病気で倒れてた間いろいろと将来の事を
じっくりと考えてみたらしく、
たいして金にならん仕事で掻き回されて
挙げ句にストレスで入院している今よりよくなっている自信がなかったらしい。




結婚して子供が産まれても
まともな時間に帰れなくて
医者にガンかもしれないなんて言われた人の気持ちはわかんない。
ただ分からない奴が邪魔しちゃいけないって思った。
結局とりあえず治ったみたいだけど。




この業界は人の入れ替わりが激しいらしい。
だけど俺はずっとここに居たいと思ってた。
やりたい仕事があれば自分でなんとかすればいい。
お金がほしけりゃもっと数こなせばいい。
自分次第でどうにでもなるこの環境を愛していたし
もともと三人だけで始めたこの会社に誇りを持ってた。




代表は俺らに何も相談しないで
次の職場を決めてきた。
自分の所だけじゃなく俺らのも。
最低限の食い扶持が確保してあったのはありがたかったけど
問題は俺らがその話を聞いたのがその後だったって事だ。
それで聞いてもいない言い訳を繰り返してる。




俺は会社がなくなることに異論はない。
というかあるけど言わない。
事情は痛いほど分かるし、
何より尊敬するボスの決定だ。
ボスのボス自身の人生への落とし前だ。
邪魔はできないし、したくない。




ただ、あんたの数年間の歴史は
俺の歴史でもあるんだ。
竹槍は竹槍なりにプライドを持ってたんだ。
それを無視した行動をとられると
ただただ悲しいし
やりきれなくなる。




まだ入社したばかりのころ。
代表はあちこちの会社からさんざん引き抜きの話を貰ってた。
んで俺に事務所をたたむ相談をしてきた。
俺は必死になって思い止どまるように説得した。
代表は俺らペーペーの弟子達と一緒に歩んで行く決意をしてくれた。
代表はもともと本社の無茶振りで
過酷な環境で東京支店で仕事をしてた。
それでも俺らと一緒ならって
引き抜きを断ってくれた。




もう一度説得なんてできるわけないじゃん。
なんとかここまで育ててくれた人の人生の邪魔はもうできないよ。
感謝も尊敬もしてる。
代表があなたじゃなければ
俺はこんなに必死に成長しようなんて思わなかった。
キャリアとかじゃなくて、必死さを評価してくれて
俺をチャンスを死ぬほど与えてくれた
あなたの期待に応えたかったんだ。




自分がやってきた事を卑下することはやめてほしい。
俺はそれを誇りにしてるんだ。
たまにぶん殴ってやりたいぐらいムカつく。
次の会社の社長から電話がかかってきて
「おつかれ」って言われたとき
捕虜になった気持ちになった。
正直こんな気持ちで転職なんかしたくない。
今週から本格的に就職活動をする。
保険に決まってる会社はキープしたままで。
こんぐらいのズルは許してくださいね。




でも俺は最後まで気持ちを押し殺そうと思ってる。
余計なストレスを与えたくないし
みっともなく泣いてしまいそうで。




沈黙は金なりということは分かってる。
こんだけおしゃべりな人間だけど
今度だけは貫けたらな。
そうする事、できる事もきっと
一人前の範疇だって俺は思ってるから。